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鉄欠乏症(貧血を伴わない鉄欠乏状態)〜特に働く女性に一言〜

ところで皆様、鉄欠乏性貧血予備軍(群)が意外に多いのをご存じでしょうか? 鉄欠乏性貧血は、日常臨床で遭遇する最もありふれた貧血であり、これに関しては皆さんは既に、新聞、雑誌、テレビ、インターネットなどの医学情報を通じて良くご存じのことと思います。
貧血がないのに疲れ易い、食欲が無いなどの自覚症を示す患者さんに、鉄剤(鉄分を補給するお薬)を服用していただくと、自覚症の改善を認めることを、私共は日常しばしば経験しますが、この場合、身体の鉄欠乏の程度が軽く、未だ貧血発現までに至らない状態(かくれ貧血)が予測され、これは不顕性鉄不足とも呼ばれています。

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貧血症状を訴えて来院なさる顕性貧血例の背後には、さらに多くの、このようないわゆる“仮面をかぶった鉄欠乏状態”の方々がおられることが容易に予想されます。

しかし、この方面についての研究・報告は、本邦では不足しているように思われます。 ここでは、未だ貧血が明らかではないが、貯蔵鉄の減少した状態―鉄欠乏症―について、私が北大病院時代に、共同研究者達と行った疫学的検討※をもとにお話します。ここで貯蔵鉄とは、鉄分の“倉庫”である肝臓・骨髄・脾臓などの網内系細胞(もうないけいさいぼう)に、フェリチン(可溶性)やヘモジデリン(比較的不溶性)という物質として蓄えられている非ヘム鉄と呼ばれる鉄分のことです。これに対して、赤血球中のヘモグロビン=血色素(けっしきそ)に含まれる鉄分をヘム鉄と呼びます。

私共が健康成人女性を対象に、この鉄欠乏症がどの位の%に存在するかを調査した結果をお知らせします。

対象は女子大生、看護婦、女子銀行員よりなる合計597名です。皆さんからボランティアで血液をいただいて、自動血球測定装置で赤血球数、ヘモグロビン濃度などを算定し、同時に鉄分なども測定したものです。

女性の貧血の割合

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その結果、鉄欠乏症は全体では48.1%に、女子大生では63.2%に、19才未満では58.3%に認められました。すなわち、“健康”な女子大生の約2/3が貧血予備軍だったのです。鉄欠乏性貧血に限ると、女子大生では13.4%に認められましたから、貧血群と貧血予備軍を合わせると、女子大生では実に76.6%におよびました。逆から見れば、女子大生では正常群は 20.6%のみでした。

思春期女子では、急速な身体的成長と月経出血が同時に負荷され、鉄の需用が増大する反面、鉄摂取量などに関連して、鉄の供給の増大が伴わず、鉄欠乏に傾き易いとされますが、私共の女子大生に見られた鉄欠乏症も、思春期より連続して存在していたものと考えられました。そして彼女達に、月経出血の多量(過多月経)などの原因が加わると、容易に本物の鉄欠乏性貧血に進展するものと思われます。

私は以前、NHKテレビの取材に際し「未婚女性は持参金がわりに、貧血を治してからお嫁に行こう!」とお話したことがありましたが、どうか健康診断などで貧血を指摘された方、貧血はないのになんとなくだるい、疲れ易いという方は一度私にご相談下さい。まず、私の専門分野である鉄欠乏性貧血や鉄欠乏症があるかどうかを検討して見ます。そして貧血も鉄欠乏も認められなければ、ケースバイケースで各専門医をご紹介しましょう。

血液の赤さは、まさに生命(いのち)の象徴でもありましょう。
貧血を治療して、お健やかな毎日をお過ごし下さい。

※石川直記,他:成人女子貧血の実態調査.基礎と臨床,10(1) : 247-255, 1976